閉ざされた寝室+背後の恋人=??

                               
色方程式


触れられた場所が熱を持って熱くて堪らない。
逃げるようにアスランの元を離れたカガリは彼の部屋に駆け込んだ。さっきまでいた部屋とは違い、薄暗いこの部屋はひんやりと冷たい。火照ったカガリに丁度良い温度に、ほうと息を吐いて手探りで照明を付ける。途端に明るくなった部屋を見渡すと、部屋の中央に置かれたベッドが一番先に目に入った。折角治まりかけていた熱をぶり返してしまいそうになって、慌ててそこから目を逸らした。誰も眠っていないベッドからたっぷり半径二メートル間を取って、うろうろと部屋の中を歩き回る。余計な物が一切無いシンプルなアスランの部屋は探している物がすぐに見つかる。カガリの目にふとクローゼットの前に置かれたアスランの通勤鞄が目に入った。この中かな、と見当をつけて、ずしりと重たいそれを持ち上げる。勝手に開けてもいいものかと暫く逡巡するが、鞄の外ポケットが膨らんでいるのを見てジッパーに手を掛けた。中を見ると見慣れた赤いリボンが入っていて、ほっと胸を撫で下ろす。鞄を元の場所に戻してリボンを付けようとしたカガリだったが、後ろに回した手にひんやりとした誰かの手が添えられて、驚きの余り文字通り飛び上がって驚いた。



それより少しだけ前。
アスランは猛ダッシュで自分の側を離れたカガリを思い出して一人肩を震わせていた。
全く、カガリは見ていて飽きる事がない。物凄く警戒していたかと思えば自らアスランの懐に飛び込むような真似をする。上手く自分から離れる事が出来たと今頃胸を撫で下ろしているだろうが、実際はアスランの得意テリトリーに自分から足を踏み入れたようなものだとまるで気付いていない。飛んで火に入る何とやらとはまさにこの事だろう。何にせよ、自分の望む方向に物事が進むのでアスランにとっては非常に喜ばしい展開であった。

足音を立てないように廊下を移動して扉の開いている部屋を覗き込む。そこではカガリが漸く探していた物を見つけたようで、リボンを入れていた鞄を元あった所へと返している所だった。カガリの手の中から赤い色がちらちらと見える。本来の持ち主の元へと戻ったそれに若干の名残惜しさを感じつつ、一歩一歩少女に近づいた。入り口に背を向けているカガリはアスランの気配に気づく事なく、手元に戻ったリボンを首に結ぼうと手を後ろに回す。フックを止め具に掛けようとした所で腕を伸ばしてカガリの動きを遮った。



「ストップ」

後ろに回されたカガリの手に自分の手を重ねて口を開くと、華奢な肩が大きく跳ねて勢いよく後ろを振り向いた。その顔は驚きに満ちていて、ただでさえ大きな目を更に大きく見開いている。吃驚しすぎて声が出ないのか、金魚のように口を動かしている少女の手からリボンを抜き取ってアスランは目を細めた。
「良かった。ちゃんと見つけられたんだな」
「・・・・お、おまえ・・・・・」
「ん?」
漸く現状把握し始めたカガリが、大きく音を立てて暴れる心臓を押さえて唸りながらアスランを見上げる。そんなカガリの内情を知ってか知らずかアスランは小さく首を傾げた。その仕草は大人である筈の彼を少しだけ幼く見せる。普段なら可愛いと思えたのかもしれないその仕草も、しかし今はカガリの驚きを怒りへと転じる材料にしかならなかった。

「急に背後に立つなって何度言ったら解るんだ!」
心臓止まりそうになるだろ、と睨みつけるが、睨まれたアスランに堪えた様子は全くと言って良いほど見受けられない。

「すまない。カガリの反応が一々可愛くて、つい」
逆にさらりと返された言葉にカガリは体温が上昇し始めるのを感じた。怒りとは違う意味で顔が赤くなりそうなアスランの台詞に、けれどこれ以上目の前の男を喜ばせる反応をしてなるものかとぐっと耐える。踊らされるもんかと、渋面に更に力を入れて手をアスランに向かって突き出した。

「兎に角!それ返せ。その為に来たんだからな」
言うが早いかアスランの右手にあるリボンを取り返そうと手を伸ばす。素早く動いた筈のカガリだったが、それよりも早い動きでアスランは右手を移動させた。それを目掛けてもう一度手を伸ばす。が、避けられる。
手を伸ばす。避けられる。手を伸ばす。避けられる。手を伸ばす。避けられる。手を伸ばす。避けられる・・・・・。
傍から見ると、まるで赤い旗目掛けて突進する闘牛とマタドールの図だった。



「返せってば!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねてはリボン奪取に躍起になるけれども、アスランは涼しい顔で高々と右手を上げてカガリの手を避けてしまう。普段でも身長差があるのだから、カガリより腕の長いアスランが手を伸ばしてしまったら、どれだけ弾みを付けても届くはずが無かった。
「そんなに欲しいのか?」
「って言うか、元々私のだろ!いいから早く返せっ!!」
「ふーん」
「か・え・せって・・・ちょっおい!」
飛び上がった所を伸ばされたアスランの左腕でがっちりと拘束されて、あっと思った時には数センチ先にアスランの顔が迫っていた。吸い込まれそうな双眸に間近で見つめられて、不覚にもその色に魅入ってしまう。そのまま顔を傾けて近づいてくる彼に、つられるよう瞳を閉じかけて、そこではっと我に返った。ゼロになりそうだった距離を、両手でアスランの口をブロックして寸での所で遮る。恨めし気な視線を感じるがここは一つ、知らん振りだ。あのままだったら流されてしまう所だったと、咄嗟に動いた自分の手を褒めてやりたい気持ちになる。
しかし体に巻き付いたアスランの腕に力が籠もったのを感じ、未だ拘束されたままの体を揺すってこの状態から逃れようと足掻く。と、呆気ないほど簡単に拘束は解けた。自由になった体をアスランから離してぎろりと睨み据える。そんなカガリにアスランは苦笑して肩を竦める。そして―

「仕方ないな。分かった、返すよ」

アスランの手からはらりとリボンが離れた。

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煽り文句『完全に勇者を手玉にとった魔王!加速する彼の次なる行動は!?』

・・・・・・・・ヒント。きっと彼の得意分野です。


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