笑顔+見え隠れする本音=?


                               
色方程式


一人で食べるより誰かと一緒に食べた方が同じ料理でも美味しく感じると気が付いたのはカガリのお陰だった。


幼い頃から多忙な両親の背中を見て育ったアスランにとって、一人で食事をする事はごく当たり前の事だった。母が仕事で家を空ける時でも腹が減れば簡単なプロセスでレトルト食品を口に入れる事が出来たし、時間になればハウスキーパーが作ってくれた食事があったので別段食に関して困った事はなかった。何よりも、親交の深いヤマトの夫人が善くしてくれて、食事に呼ばれる事も多かったので、その頃の自分はその現状を「寂しい」だとか「不満」だとか感じていなかったように思う。幼い頃に培った概念はそうそう変わるものでもなく、年を重ねて一人で生活を始めるようになっても同じように感じていた。
長い間持っていた考えが変わった、そのきっかけは些細な事だった。
それは滅多に風邪などひかない自分が珍しく熱を出した時の事。その日はカガリが家に遊びにくる予定だった。心配させてはいけないと市販の解熱剤を飲んでカガリを迎えたのだが、扉を開いたカガリに開口一番大声で怒鳴られたかと思えば、背中を押されて寝室へと連行されてしまった。胃に入れやすい物を作るからと言って冷蔵庫を開けたカガリが、ものの見事に何もない冷蔵庫を見て大激怒したのはその直後。その後、肩を怒らせながら財布を掴んで近所のスーパーに駆け込んだカガリのお陰で、持ち腐れだったアスランの冷蔵庫は漸くその機能を発揮する事が出来た訳である。
カガリ特製の雑炊を食べ薬を飲んだアスランをベッドに押し付けて、カガリはビシッとアスランを指差して言い放った。
『これからはお前がちゃんと食べてるかちょくちょく抜き打ち検査しに来るからな!』
その言葉通り、カガリは折を見ては沢山の食材を抱えてやって来てくれた。カリダさん仕込の料理の味は意外な程美味しく、温かな料理とカガリとの他愛の無い会話はアスランの五感を満たした。
全く、怪我の功名とはきっとこういう時の事を言うのだろう。




「うん、すごく美味しい」
「ほんとか?良かった。冷蔵庫にもっと材料があったらもう少しきちんとした物が作れたんだけど」
「耳が痛い話だな」
「全くだ!ちょっと目を離すとすぐこうなるんだから」
睨みつけてくるカガリに苦笑してスプーンですくったオムライスをまた一口頬張る。自分に向けられている視線に構わずに口を動かしていると、それ以上の文句を言うのを諦めたのか、カガリも湯気を立てているスープに口を付け始めた。

「でな、その後フレイとミリィが」
嬉々として友人の話をするカガリに頷きながらアスランは恋人の手料理を口に運ぶ。
学校であった事、友人と一緒に入ったケーキ屋の新作の事、カガリの兄であるキラの事。自分の為に作られた料理を味わいながら、次から次から溢れてくるカガリの話にアスランは耳を傾ける。アスランは専ら聞き手だが、カガリが身振り手振りで喋る内容は聞いていて飽きる事は無い。くるくると変わる表情を見ているだけも楽しいと思える。皿の上を綺麗に平らげて、二人で後片付けをしている間もキッチンから聞こえる明るい声が止む事はなかった。


「どうぞ。熱いから気をつけろ」
「わあ、サンキュ」
ほかほかと温かいカップをカガリに渡してアスランもソファの空いているスペースに腰を下ろす。いただきますとカップに口を付けたカガリがコーヒーの熱さに舌を出すのを見て、苦笑いしつつ自分もカップの中身を口に含んだ。カガリの手の中のミルクコーヒーの様に甘く凪いだ空間に、コチコチと時を刻む時計が邪魔にならない程度に音を添えている。ふと時計を見たアスランは、横でカップから立つ湯気に息を吹きかけているカガリに目を遣った。
「そういえばカガリ、今日はカリダさんに何て連絡しているんだ?」
「え・・・・と、フレイの家で課題するって。明日休みだし、もしかしたらそのまま泊まるかも・・・・って」
言い難そうにモゴモゴと告げる顔は耳まで真っ赤になっている。照れ隠しか、ぐいっとコーヒーを飲んだカガリの耳にタイミングよくアスランの呟きが届いた。
「そうか。じゃあ少し寝るのが遅くなっても大丈夫そうだな」

ごほっ。
カップに口を付けていたカガリが盛大にむせる。中身を噴出すまではいかなかったものの、背中を丸めて咳き込むカガリのあからさまな動揺が逆に可笑しい。小さく笑いながら背中を擦っていると、何とか堰が治まったカガリがゆっくりと体を起こした。咳き込んでいた為か、目を潤ませてこちらを見上げる表情はアスランがはっとする程艶めいていた。体の奥底に生まれた衝動を止める事は不可能で、背中に置いていた手でブラウスの上から体の線を辿るとカガリはくすぐったそうに身を捩る。しかしアスランの手の動きがある明確な意思を持っている事を触れられた先から感じ取ると、慌てて両手でアスランの胸を突っ撥ねて二人の間に隙間を作った。

「カガリ?」
「そ、そういえば!私のリボン!!お前どこに持ってるんだよ!」
「・・・・ああ、そういえば。鞄の中に入れてあるよ」
「取って来る!」

腰に回されたアスランの腕を押し退けて脱兎の如くその場から逃げたカガリを見送った後、アスランもソファから立ち上がってカガリが消えた部屋へ足を向けた。


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80,000ヒット御礼アフター話第二編

煽り文句『遂に魔の空間に足を踏み入れた勇者(カガリ)!起死回生の術はあるのか!?』


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