恥ずかしさ+ほんの少しの期待感=?


                             
色方程式


高鳴る胸を抑えて、カガリは鞄の中から鍵を取り出した。キーホルダーにぶら下がっている中から一つ選んで鍵穴に入れて軽く捻ると、カチャリと音がしてロックが解除される。玄関の鍵を開けるという単純作業。それが自分の家ではなく他人の家というだけでこんなにもくすぐったい作業になる事を少し前まで知らなかった。

真っ暗な玄関に足を踏み入れて手探りで明かりを点けると、パッと家中が明るくなった。脱いだ靴を端に行儀良く並べてスリッパに履き替えるとフローリングの廊下を進む。リビングの扉を開けると持っていた鞄を床に下ろして部屋の中を見渡した。壁に掛けられている時計だけが静かな部屋で音を奏でている。一人暮らしにしては広いアスランの家はそこかしこに彼の存在を感じてしまって何だか落ち着かない。空気を吸い込むと彼の香りが全身に広がっていくようだった。


ウロウロ、ウロウロウロ。

する事がない手持ち無沙汰の状況に、まるで檻に入れられた動物のように室内を歩き回るが心拍数は上がる一方だ。忙しなく歩き回っていた足がぴたりとその動きを止めたかと思えば、今度は『あ』に濁点を付けたような声を出してその場にしゃがみこむ。テレビのテロップで時折見かける、月や星や三角四角をたっぷり含んだ意味を成さない言葉を発しては頭を抱えている、その姿はある意味見物だ。抱えた膝の向こうに見えるアスランの寝室の扉を見て無性に暴れだしたい気持ちになった。
壁に掛かっている時計の針は、いつもならカガリの家で夕食を摂り始める時間を指している。
もう少ししたらアスランが帰ってくる・・・・・そしたら・・・・。
放課後の一件を思い出し、それに呼応するようにアスランからのメール内容を一言一句間違えずに思い起こしてしまったカガリは全身から蒸気を発して赤くなった。

思い出すのは夕焼け色に染まった準備室。噛み付くような深い口付け。スカートの下に滑り込んだ大きなアスランの手。

訳の判らない事を言っていたアスランの瞳はとても苦しそうに見えたけれど、可愛くない私の言葉にいつも通りの彼に戻ったようだった。嬉しそうに私を抱き寄せたアスランの顔が凄く綺麗で、ここが学校だという事も忘れて身を委ねてしまうところだった。
続きっていうのはやはりそういう事を指すのであって。こうしてマンションまで来てしまったという事はアスランはきっとあの先をするつもりなんだ、よな・・・。リボンだけ受け取って帰るなんて事は相手があのアスランだから無理そうだし。自分もアスランとそういう雰囲気になるのが嫌かと聞かれればそうではないし。
ああもう。女心はなんて複雑なんだろう。

「―っ!ダメだ!!何かしとかないと身がもたない」

纏わりつく思考を振り払おうと大きく首を振って立ち上がると、その足でふらふらとキッチンに向かった。



冷蔵庫を開けてその中身を見たカガリは、目にしたアスランの食事情に大きな溜息を吐いた。
「あれだけちゃんと食えって言ってるのに・・・」
冷蔵庫に入っていたのはプラスチックのパックにちょこんと並べられた卵が数個と牛乳パックが1本。野菜に至っては人参と玉ねぎが少しだけ残っているだけだった。後はバターやケチャップ等々、食べ物とは言えない物ばかり。これではまともに食事を摂っているとは到底考えられない。
これだけしか材料がないんじゃ、ちゃんとした夕食作ってやれないじゃないか。
暫く冷蔵庫の前でうーんと唸った後、ふと目に付いた炊飯器を開けた。中から湯気が立ち上って少しだけ安心する。これで中身が空だったら殴ってやろうかと思っていた。着ていたブレザーを脱いでブラウスを腕まくりすると、カガリは何やら行動を開始した。




車窓から見える自宅の窓から明かりが漏れているのを見て、アスランは車の速度を上げた。マンションのホールを抜け我知らず緩みだす頬を何とか引き締めて玄関の扉を開ける。
「ただいま」
「おかえり!」
普段は言わない言葉を奥に向かって投げると、パタパタと軽快な音を立てて廊下の向こうから明るい金髪が顔を覗かせる。今日一日の疲れを吹き飛ばす威力を持った笑顔に迎えられてアスランも自然と微笑んだ。駆け寄ってきたカガリがアスランの手から鞄を取り上げて腕を引っ張る。
「疲れただろ?有り合せでだけどオムライス作ったんだ。早く一緒に食べよう」
キッチンからもカガリからも美味しそうな香りが漂ってきてふんわりとアスランの鼻腔をくすぐる。
「そうだな。すぐに着替えてくる」

ネクタイを緩めた手で細腰を引き寄せるとふっくらした頬に『ただいま』の挨拶をした。



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80,000ヒット御礼アフター話

煽り文句『勇者(カガリ)は魔王(アスラン)の住む魔の巣窟から無事に帰還出来るのか!』



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