シンプルな頭で考えた方が解ける問題もある


                               
色方程式


カガリの第一印象は「ヒヨコ」だった。金色の髪にぱっちりと開かれた瞳。たどたどしい口調で俺を呼び笑う小さな女の子。まるで鳥の雛の様に、どこに行くにもキラと俺の後をついてきた。キラと顔を見合わせて二人笑うと、小さな手を取ってカガリの速度に合わせて歩いた。こちらを見上げる無垢な瞳に、体が温かいもので包まれる気がして。まるで本当の兄になったつもりでカガリの手を引いていたあの頃。
俺達を取り巻く空気は優しく、季節は桜の花びらを散らし、濃厚な緑を茂らせ、温かな秋の色合いに木々を染めて、そうして全てを雪で覆い。そうしてまたそれ繰り返して少しずつ少女を大人にしていった。いつしかカガリが纏う制服は中等部のそれではなくなり、高等部のブレザーに変わった。その頃からだろうか。昔と同じようにカガリを見れなくなったのは。妹なんかではなくて、女の子として意識するようになったのは。
今の関係を壊したくない、けれど膨らむ思いは止まらなかった。悩み抜いてやっと告げた想いに、カガリはとても驚いていたけれど、恥ずかしがりながらも頷いてくれた。

けれど、天真爛漫で誰とでもすぐに仲良くなれるカガリは男女問わず人気があって、そんな彼女に好意を寄せる男も少なくない。想いが通じた後も、否むしろ後の方がカガリの事で一喜一憂する事は増えた。近づく男は排除してしまいたい。
たとえそれが生徒でも教師でも。
この想いがどうしたら伝わるのだろう。







来客用のソファにカガリを押し倒して、驚きに開かれた唇に強引に自分の唇を押し付けた。我が身に起こった事態を理解したカガリはブラックスーツに包まれたアスランの胸を容赦なく拳で叩くが一向に解放されない。その代わり、アスランはそれ以上の進入を拒んでいたカガリの唇を抉じ開けて、奥に引っ込んでいた舌を捕らえて絡ませる。あまり経験のない深い口付けに、慣れていないカガリの体が震えだす。

「んぅ・・・っ」

チェックのスカートをたくし上げて、その裾の奥の柔らかな太股を撫で上げると切なそうに呻いて身を捩る。普段は生徒や教師が腰掛ける場所でカガリに触れてる。なんだか酷くエロティックで体が疼いた。制服のリボンに手を掛けてそれを外す。ぱさりと音を立ててソファに落ちた赤のリボンに手を伸ばそうとカガリは腕を動かしたが、目標物に届く前にアスランの手に邪魔をされてしまい掴む事は叶わなかった。

「ちょっ!アスラン!!」

何も言わずに黙々と触れるアスランにカガリは目を見開く。
こんな所で。しかもこんな風に。
羞恥や戸惑いや怒りがごちゃ混ぜになって声を上げると、体を弄っていたアスランの手がぴたりと止まった。解ってくれたのだろうかとアスランの顔を覗きこんだカガリはつと息を詰めた。瞳に映るアスランが何故かとても悲しそうにこちらを見つめていたからだ。深い緑がカガリを捉え、髪を撫で、耳を隠す髪をはらって露わになったそこに顔を寄せる。一連の動作にカガリの体は金縛りになったように固まる。
男なのに女よりも艶やかに濡れた唇が動いて空気が揺れた。

「他は見ないで。俺だけを見て」

授業で聞く凛とした声とは掛け離れた声で囁かれた言葉に、カガリは身体中から力が抜けるのを感じた。
何を言い出すかと思えば。死にそうな顔をするからどうしたかと不安になった自分が馬鹿みたいじゃないか。
はあ、と大きく吐いた溜息に目の前の恋人の顔が複雑に歪んだ。このまま放っておいたらアスランは出口のない迷路に無限ループしてしまう。その原因を作ったのがよく分からないがどうやら自分らしい事はカガリにも分かったので、皺の寄ったアスランの眉間を指でピンと弾いた。突然額に感じた痛みに、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔で見下ろしてくるアスランの首根っこを捕まえるとぐいと引き寄せて、何も分かっていない男に言ってやる。

「私の視界をお前でいっぱいにしといて、何を今更」
「いっぱい?俺で?」
「そうだ」

カガリの言葉を反復するアスランは不安定な子供のように見える。

「・・・・イザークよりも、シン・アスカよりもか?」

どうしてそこでシンの名前が出てくるのだろう。アスランの言葉に内心首を捻るが取り敢えずその通りだったので頷いた。


「そうだ。こうなったの全部全部お前のせいなんだからな。せ、責任とれよ!」

なんだかとても恥ずかしい事を口走っている気がして顔に熱が集中し始める。気取られないようにぷいと顔を背けたが、それを追ってアスランの腕が伸びてきてきつく抱きしめられた。

あわあわと慌てるカガリを更に抱き込んでアスランは、漸く胸に溜まっていた靄が晴れるのを感じた。一人で勝手に嫉妬してカガリに当たるなんて我ながら格好悪いと思うが、落ち込む気持ちを凌駕する程にカガリの言葉はアスランを満たしてくれた。

「喜んで」

嬉しそうに笑うアスランを真っ赤な顔で見つめたカガリではあったが、ゆっくりと覆いかぶさってくるアスランに今度は素直に腕を伸ばした。



その時、廊下から荒っぽい足音が聞こえてきて、準備室の扉がドンドンと乱暴に叩かれる。その音に、カガリは首に回そうとしていた腕でアスランの胸を押して慌てて距離を取った。急いで衣服を整えてソファから立ち上がった。アスランは床に落ちたままの女生徒用のリボンを拾ってスーツのポケットに入れると扉に声を掛けた。

「何をやっているんだ貴様は!今日は会議があると言っていただろうがぁ!!」

憤懣やるかたないといった風に扉を開けたのは散々アスランの心をかき回してくれた二人だった。どかどかと入ってくるイザークの怒声を聞きながら、そういえばと、アスランはデスクの上の資料に目を遣った。

「済まない。すぐに準備する」
「ふん、もたもたするなよ・・・ってアスハ?」
「どうした?アスランの所なんかで」
「う、えっと・・・」

イザークとディアッカのダブルサウンドに、咄嗟の言葉が出てこないカガリは視線をあちこちに彷徨わせて口ごもる。その窮地を打破したのは先生モードのアスランの声だった。

「アスハのクラスのプリントを取りに来てもらったんだ。アスハ、これが君のクラスの分だ。明日の朝で良いから配っておいてくれ」
「わ、わかりました!」

助かったと言わんばかりの勢いでアスランの手からプリントをひったくったカガリはイザーク達に一礼して一目散にその場を後にした。





廊下を走って階段を駆け下りて、自分のクラスに辿り着いたカガリは、力が抜けてプリントを持ったままその場にへたり込んだ。触れられた場所がまだ熱を持っている。あの二人が来なければアスランは最後までするつもりだったのだろうか。そんな目をしていたような気がする。そして驚くべきは自分がそれを受け入れそうになった事だ。
思い出される放課後の出来事にカガリが一人百面相をしていると、ブレザーのポケットに入れていた携帯電話がいきなり震えた。突然の事に飛び上がって慌てて携帯を取り出すとメールが一件届いていた。差出人は「アスラン・ザラ」。
なんだろうとメールの中身を確認したカガリの顔は見る間に茹蛸状態になった。


Sb:non title
『リボンは俺が持ってるから。今晩俺の家に取りにおいで。続きはその時に。』


真っ赤になったカガリには野球部のノック音も吹奏楽の奏でる音も耳に入らなかった。

                              

                                 fin


80,000ヒット御礼第三編

ザラ先生はカガリちゃんがいないと寂しくて死んでしまうのです。

「シンやイザ&ディアに嫉妬するアスラン」でした。
素敵なリクエストをしてくださった美音様に捧げます。


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