like
@・・・が好きである;〈人に〉好意をもつ
A・・・をするのが好きである

love
@(・・・に対する)愛、恋愛;好意、いつくしみ
A(異性に対する)愛、恋愛、慕情


似て非なる、二つを区別する方法


                        an underdeveloped word


教科書と睨めっこし始めてからどれ位時間が経ったろうか。

頭の痛くなるアルファべットから目を離して、カガリはちらりと机の隅に置いてある時計を見遣った。
不思議なもので、楽しい時というのはあっという間に過ぎてしまうのに、早く終わってほしい時間というものはゆっくりと、まるでこちらの鬱々した気分を増大させるように居座る。
確認した時間は、前に見た時刻から然程進んでおらず、短針は勿論長針ものろのろと動くだけ。未だ見慣れないアルファベットの羅列は半分も解読出来てはおらず、自分自身の歩みの鈍さに頭が痛くなる。
頬杖をついたカガリは手に持ったペンの先で悪戯に教科書の上をなぞり、頭を悩ませる文字を軽く叩いた。


その時、自室のドアが二度三度ノックされて、その音にカガリは天の助けとばかりに、勢いよく後ろを振り返った。
カチャリとノブを回して入って来たのはカガリの歳の離れた幼馴染兼宿題の助っ人で、両手には色違いのマグを二つ持っていた。中身を溢さないよう、器用にドアを閉めたアスランは、カガリの傍にコトンとカップを置く。
カガリが礼を言い、赤色のそれを持ち上げると、アスランは笑って頷き自分のカップに口を付ける。

一口飲むとカガリはほうと息を吐いた。
温かなココアはこんがらがっていた頭を少し解してくれるようだ。
口の中に広がる甘さは、下向きだった気持ちをもう少し頑張ろうかという気持ちにしてくれる、栄養剤のよう。
もう一口、と、カガリは湯気の立つ温かな茶色の水面に息を吹きかけた。


「で、どうだ?どのくらい進んだ?」

自分のカップを邪魔にならない場所に除けて、カガリの横に立ったアスランがノートを覗き込む。見下ろした先にあるノートは、息抜きにと飲み物を取りに下りた時からあまり変わっていない。その事実に内心でやれやれと苦笑しつつ、カガリの隣の椅子へ腰を下ろした。
ノートに書き込まれた和訳を一通り見るが特に大きな誤訳はないようだ。
その分、一文一文の訳に時間が掛かってしまうようだが、それは徐々に英語に慣れていけば改善できるだろう。
ただ所々に英単語の意味が少しずれた箇所が見受けられた。


「ここの訳だけど、間違ってはいないが少し変えた方が良い。loveも『好きだ』には変わりないけど、この場合は『愛している』と訳した方がしっくりくる。loveはlikeよりも強い気持ちが込められた言葉だから、次からは使い分けような」
「分かった!」

カガリは元気に頷くと、指摘した箇所を書き直し始める。意味の確認の為に辞書を引くよう促すと、カガリは本棚から厚い英和辞典を取り出してページを捲り、左から右へ視線を走らせた。暫く紙を捲る音が続いて、それはぴたりと止まる。
目当ての単語を見つけたカガリは、何通りもある意味を目で追い、その内太字で記載されているものをノートの端に書き出した。それが終了するとパタンと辞書を閉じて、椅子の背に体を預けた。
ぐっと伸びをして深呼吸をし、しみじみと呟く。

「英語って難しいな。似たような意味なのに何個も違う単語があって」
「でも、国語にも愛情を示す言葉は沢山あるぞ」
「そうなのか。好き、だけじゃなくて?」
「そう。親愛、敬愛、盲愛、汎愛・・・。同じ愛でも、対象への気持ちはそれぞれ違う」

カガリは黙ってアスランの話に耳を傾けていたが、アスランが話し終わると小さく唸って首を傾げた。
「よく・・・・解らない。好きは好きに変わりないのに」

釈然としない表情と、言葉。
幼いカガリの幼い疑問にアスランは目を細める。

「もっとカガリが大きくなったら解るよ」
「そうなのか?」
「ああ、きっと」

頷きながらアスランは考える。
そう。
今は「好き」の違いに首を傾げている少女も、いずれはその明確な違いを実感するのだろう。これから沢山の人間と出会い、恋をして。想いを通わせた男の為にとびきりの愛の言葉を囁くのだろう。
遠いのか近いのかも定かではない未来を想像すると、何故か一抹の寂しさがじわりと滲み出す。娘を持った父親の心境というのはもしかしたらこんな感じなのかもしれない。
キラの事をシスコンと言っていたけれど、実は自分も相当重度なのだろうか。

「おい、どうした?アスラン」
自らの複雑な心の内に苦笑いしていたが、訝しげな顔をしたカガリがこちらを見つめているのに気が付いて、何でもないと首を振った。この歳でお前の親になった気分を味わっていた、なんて言えるわけない。
それでもまだこちらを見つめるカガリの頭を軽く叩いて、教科書へと視線を戻させる。


「本当に何でもないから。ほら、話が逸れたけど次の文章を訳してみて」
そう言って指差した先の英文を見て、カガリの眉が元気なく下がる。
「う・・・・・。心配して損した」

拗ねたような声をあげながらも辞書を手に取る少女を横目で追って、アスランは自分のカップに口を付けた。

もう暫くは今のままのカガリでいてほしいと自分勝手に願いながら。






青年の心が『父親の心境』から色を変え、少女が『好き』の違いを知るのは、今は未だ先の話。




フェイバリット英和辞典 第三版



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