■キラ×ラクス
手渡されたのは手のひらサイズの可愛らしい箱。


彼女の髪の様な色合いのピンクのリボンを解くと、中に入っていたのは甘い香りのチョコレートマフィン。カカオの香りが鼻腔を擽るそれは、市販の物とは違い、手作りの優しさが箱一杯に詰まっていて、キラの胸を優しく満たしてくれる。美味しそうに焼き上がったマフィンをじっと見つめていると、歌の様な笑い声が隣から聞こえた。

「アスランから聞きましたの。キラは昔から甘い物が大好きで食べ過ぎてしまう事が度々あった、と。ですからこれはキラの為のカロリー控えめマフィンですわ」

レシピは秘密です、と口に指を当てて笑うラクスの仕草は、ちょっとした事でも一々絵になる。
幼馴染の余計な一言に頬を膨らませるが、アスランの助言はともあれラクスの心遣いは純粋に嬉しい。アスランへの文句は本人に会うまで心の中に仕舞っておく事にして、ふんわりと笑う彼女に笑顔で返した。

「食べていい?」
「どうぞ」
手に取ったマフィンを一口頬張ると口の中に広がるカカオの風味。
「美味しい」
素直な感想が言葉となって毀れた。それを聞いてラクスの目が嬉しそうに細められる。
「隠し味に沢山込めましたもの」
「隠し味?」
何それと首を傾げるとラクスは耳元でそっと教えてくれた。
頬を薄紅色に染めながら、少し恥ずかしそうに。

「隠し味は私の気持ちです」


何より贅沢な隠し味に、自分の頬にも熱が集まるのを感じた。



■ディアッカ×ミリアリア
顔馴染みに名を呼ばれて振り返ると、何かの包みを投げられた。
「母なる星から贈り物だ」
そう言って踵を返した男の後姿を見送って、手の中の包みに視線を落とす。
馴染みのない国名の後に綴られた送り主の名に、柄にもなく胸が高鳴った。


自室に戻ると早速包装を外しにかかる。間違って破ってしまわないように、丁寧にテープを取り包装紙を除けると、中に入っていた物がディアッカの目に入った。送られてきたのは一枚の写真。それから、カカオの実がプリントされたパッケージの袋が一袋。

写真には日に焼けた女達がカカオの実を摘んでいる姿が映っていた。見る限りそこに差出人の彼女の姿はない。
それも彼女の就いた職を考えれば無理はなかった。彼女はファインダーに収められる立場ではなく、ファインダーを覗く立場だから。それを分かっていても、眩しい光の中で笑う笑顔がミリアリアのものではない事に若干、もとい、かなり落ち込む。

彼女からこの日に贈り物を貰えた事でも自分にとっては大金星だというのに。

中々振り向いてくれない彼女とのこれまでの道のりを思い出し、持久戦の長さに自分の事ながら苦笑する。気を取り直して袋の封を開けると、途端に香るカカオの香り。濃厚なその香を嗅ぎながらカップに数杯粉末を入れて熱い湯を注ぐ。
立ち昇る湯気は甘い甘い香り。
一口飲むと、飲み慣れないホットココアは、それでも一日の疲れを溶かしてくれる気がした。
写真の中にいないミリアリアを瞼裏に描いて瞳を閉じる。


封を切った袋の中身は勿体無くて飲めそうにない。



■アスラン×カガリ
白く輝く月の光は闇に馴染んだ目に少し眩しい。
ヘッドボードに背を預けて、闇夜に浮かぶ月を見上げた。

どんなに目を凝らせども、漆黒の闇の向こうに『砂時計』と称される故郷を見つける事は出来ない。
それでも今日という日は、どうしても空を見上げてしまう。
見る事がもう叶わないと知っていても、真空の世界に浮かぶプラント群、今は存在しない一基に思いを馳せる。一瞬で消えた母の笑顔を思い出す。
過去と名を付けるには受けた衝撃と痛みはあまりに大きい。悲しみと怒りの連鎖に自らも飲み込まれ、取り込まれ、最後に手に残ったものなど限りなくゼロに近かった。

敵だと思い撃ってきたのは紛れもなく同じ人間で、自分が母を喪い悲しんだように、自分が殺した人の家族もまた大切な人を喪い悲しんだんだ、と。それに気がついたら、息をするのも苦しくなった。
それをいつも止めてくれたのは、今横で寝ている少女だった。

彼女は敵だった。
初めて言葉を交わした『敵』だった。

あの時、あの無人島で、カガリに、出会わなければ。出会っていなかったら。
あれ程の苦しみはなく、しかしこうして真っ直ぐに空を見上げる事は出来なかっただろう。
すやすやと眠るカガリこそ、あの戦争の中で自分が見つけた数少ない光だった。

ナイトテーブルに置いてある箱に手を伸ばし、チョコレートを一粒口に入れる。緩やかに溶けていく程にカカオの風味が広がってゆく。
「甘いな」
ぽつりと呟いて、シーツごとカガリを引き寄せて瞳を閉じる。


甘い香りは悲しい記憶に優しかった。



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