〔アグニ〕スーヌー、グラパティー
属性:天空神、古代神、火の神
燃え上がる炎は天に昇り全てを浄化する
アグニとはサンスクリット語で「火」そのものを表す言葉
天と地を繋ぐ存在として祀られている
                           



                          神の名


MSデッキに大きな声が響き渡る。

「だから俺はザフトの船に行くと言っているだろうが!」
「どうやって行くんだよ。お前のデュエルは動かせないだろ?それに停戦状態になったといっても
単独で宇宙に出るのはあまりに軽率だと思うけど?」
「だからといって足つきになど乗っていられるか!!」



さっきから同じような会話を何度繰り返しただろう。
一向に歩み寄りの見えない押し問答にはいい加減疲れてくる。
ディアッカはイザークに聞こえないように小さくため息をついた。

L4メンデルで再会した時には銃を突きつけながらも生存を喜んでくれた。
ヤキンドゥーエ攻防戦の折には地球連合軍の攻撃から自分を救ってくれた。
だがあまりに昔と変わらないその口ぶりに思わず苦笑してしまう。

「何が可笑しいんだ、貴様」

笑ったことを見咎められ謝罪の言葉を口にしようとする。
と、その時入り口の方から馴染みの少女の声がした。


「ディアッカ!!」


声をかけてきたのはハニーブロンドに琥珀の瞳が印象的な勇ましいお姫様。
本人を前にして言おうものなら本気で嫌がって臍を曲げてしまうけれども。
その横には濃紺の髪の同僚もいる。

ザフトに居た頃は真面目くさって面白みのない奴という印象しかなかったが共に戦うようになってからは
アスランの意外な一面を知った。
正確には「カガリと一緒にいる時」のアスランを見るようになっていからだが。

「よお。どうした、お姫様、アスランも」
「姫って言うな!」

いつものように拳が飛んでくるのをひらりとよけながらちらりとアスランを盗み見る。
案の定、不機嫌そうにこっちを睨んでいた。


分かりやすくなったもんだ


そんな露骨なアスランにも気付くことなくカガリが話しかけてきた。

「ここにデュエルのパイロットがいると聞いてきたんだが。もしかしてその銀髪の奴か?」
「もしかしなくてもこいつがデュエルのパイロットだ」

答えてやると嬉しそうに笑った。
そうして突然の来訪者に呆気に取られていたイザークの元にふわりと移動する。
大きい瞳にじっと見つめられたイザークは、反応に困ったようにカガリから顔を逸らした。

「私はカガリだ。お前は?」
「しょ、初対面の人間にお前呼ばわりされる筋合いはない!!
ナチュラルは初対面の人間に対する礼儀を知らんのか!?」


初めて会った少女にお前呼ばわりされてつい悪態をついてしまう。
言い終わってから自分の失言に気が付いたがもう遅い。
目の前の少女は俯いて肩を震わせている。
泣かせてしまったかと後悔した、その時
さっと顔を上げたカガリの拳がイザークの頬に炸裂した。
とっさのことで避けることが出来ず思い切り殴られたイザークは、痛む頬を押さえて呆然とカガリを見た。


この大馬鹿野郎!!」

びりびりと空気を振動させてカガリが怒鳴る。


この期に及んでまだナチュラルとかコーディネーターとか!何が原因で争い出したと思ってる!!
この戦争でどれだけの人が死んだと思ってんだ!」

肩を怒らせ声を震わせ、それでも怒りに燃える目は逸らされることなくイザークを射抜く。
正面から罵倒され口から出てきたのはたった一言。
「・・・・・すまな・・・・かった」
言った本人が一番驚いた、素直に出てきた謝罪の言葉

その言葉に殴った方も決まり悪そうにイザークを見た。


「いや、こっちもいきなり殴ってすまなかった。・・・・・改めて自己紹介がしたい。
私はカガリだ。お前の名前を教えて欲しい」
「イザーク・ジュールだ」
「そうか。イザーク、助けてくれてありがとう。ずっとお前にお礼が言いたかったんだ」
「俺がお前を?」
「私はストライクルージュという機体に乗っていたんだ。地球軍の攻撃を受けて危なかった時に
シールドで庇ってくれたろ?ほんとにありがとな!!」

にこにこと嬉しそうに言うカガリに、イザークは必死で記憶を遡らせる。

ルージュ

脳裏に赤とピンクの機体が浮かんだ。
確かにあの時派手な機体を庇ったが、まさかこんな少女が操っていたとは。

「別に礼を言われる程のことではない」
「素直じゃないやつだなぁ。まあいいや、暫くはAAにいるんだろ?
私はクサナギにいるから何かあったら遠慮なく言ってくれ」

それだけ言うとじゃあな、と手を振って軽やかに出口に向かって行った。

その後をアスランが追う。すれ違う時に目が合うと何故か睨まれた。
その態度に憮然としつつ二人が出て行くのを見ているとディアッカが笑いを堪えながら近寄ってくる。

「見事にやられたな」
「・・・・・油断しただけだ」
「ま、お前もあのお姫様の扱いには気を付けろよ。今回は姫さん一人に殴られるだけで済んだけど
下手したらアスランの拳も食らう事になるからな」


何故ここでアスランが出てくる


そんな心の内が顔に表れたのだろう。

「あの姫さんはカガリ・ユラ・アスハ。あのオーブの獅子の娘だよ。んでアスランの想い人」
「・・・・・・・・は?」

こいつは今何と言った?
さっき自分を殴った女が本物の『姫』?
オーブは自国の姫を戦場に送り出したのか?
――――――いや、それよりも何よりも―――――――


「あのじゃじゃ馬がアスランの想い人!?あいつにはラクス・クラインがいるじゃないか!」
「そこんとこ詳しくは俺も知らないけど、アスランが姫さんにメロメロなのは明白だな」

頭がくらくらする。
そう言われてもあの澄ました男に『メロメロ』という言葉がどうしても結びつかない。

「相手はナチュラルなのに・・・・・か?」
「そうなんだけどさ、あの子と話してるとそういうの忘れちゃうんだよな」

不思議だよな、と頭を掻くディアッカの言葉を聞きながら、その意見に同調している自分がいる。

ナチュラルは『敵』だと、ずっとそう思って戦ってきた。
その存在に嫌悪感を抱いていたはずなのに、カガリと名乗った女には不思議とそういった感情を持たなかった。
コーディネーターである自分に屈託なく笑いかけてきたカガリ。
コーディネーターとナチュラル
あの少女の中には世界すら隔てた両者の違いなど存在しないのかもしれない。

プラントに住まうコーディネーター、地球に住まうナチュラルを結ぶ存在。

それはまるで昔読んだ神話の中の存在のようだ。
「アグニのようなやつだな」
ディアッカにも聞こえないくらいの声で呟いた。



結局、嵐の様な訪問者のせいでこの艦を降りる機会を失ってしまった。
ディアッカの言う通りにするのは癪だが暫くここに残る事になるだろう。
もし気が向いたらカガリにメロメロだとかいうアスランを見に行くのもいいかもしれない。
そんなアスランをからかうのも楽しいだろうと考えて一人小さく笑った。



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