芳しい花は数あれど 


 

「どうしたんだ、この花は」

 

慣れ親しんだカガリの部屋
そこに足を踏み入れた瞬間、強烈な花の香りに包まれた。



広いカガリの自室
そこには色とりどりの花束がいくつも並べられ、その中心に普段着になったカガリが佇んでいる。
思わず呟いた言葉を聞いてカガリがくるりと振り返った。
そのまま、沢山の花の香りに顔を顰める俺に構うことなく近づいてきた。


「今日の会談に出席したやつらに渡された。こんなに悪いって言ったのにな」


少し困ったように肩を竦めるが、花束の一つを手に取って香りを吸い込む。
こちらと視線が絡むと、綺麗だろう?と嬉しそうに屈託なく笑いかけてきた。
その笑顔にこちらも自然と頬が緩んでしまう。



ふと視線をカガリから花束へと移す。



シトラスイエローのチューリップ、ローズピンクの薔薇、マーガレット、デンファレ、ガーベラ
確かに彼女の腕の中にある花束は目に鮮やかで美しい。



けれど

「俺はあまり好きじゃない」



この部屋に広がる香りは一番好きな香りをかき消してしまうから

カガリの手から花束をそっと取って横のテーブルに置くと、当惑する彼女を包み込むように抱きしめる。
突然の行動に腕の中でカガリが固まるが、構わず白い首筋に顔を寄せた。


ふっと優しい香りに包まれる。


太陽のように暖かくて仄かに甘い、愛しい少女の香り
心を揺さぶられる香りはたった一つ、これだけだ。
どんな高価な香水も花も敵わない。


 

「俺はこの花だけでいい」


芳しい花は数あれども、これほど自分を捕らえて虜にする香りを放つ「花」は他にない。
 


「私は花なんかじゃないぞ」


顔を真っ赤に染めながらポツリと呟く。
そんなカガリに静かに微笑んで瞳を閉じた。

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