乾いた大地を熱風が嬲る。
風に舞った砂塵は天に上がりまた音もなく大地へと還る。
繰り返される静かな連鎖はまるでこの時代を生きる人々のよう。
砂と灼熱の太陽が織り成すこの地で聞こえるのは微かなる風の鎮魂歌。



                   白と青


砂煙を巻き上げて一台のジープが砂漠を走る。
乗っているのは二人の男女。
外套を風に靡かせてただひたすらに先へと進む。
不毛の地をどれくらい走っただろうか。同じような景色が続くこの場所ではその感覚さえ曖昧になる。


「ここでいい。止まってくれ」
腕を組み助手席に座っていた少女が運転席に告げると、ハンドルを握っていた青年は小さく頷いて
ブレーキをかけた。
車が止まると少女は身軽な動きでひらりとジープから飛び降り、顔を覆っていたゴーグルを外す。
周囲を数度見遣った後、さくさくと小さな音を立てながら近くのなだらかな砂の丘を上がり始めた。

踏み出す度に熱い熱を足裏から感じる。
空を仰げばあの頃と同じ、照りつける太陽と抜けるような青空が視界に入る。

ああ、この匂い。
この熱、この風。
懐かしいこの地。

足を止めその場に膝を着いて細かな砂を掬い上げ、手の中の一握の砂を見つめた。
時折吹く風が手の中の砂を奪って何処かへ連れ去ってゆく。
さらさらと手から無くなってく存在を眩しげに目で追う。
どれだけ強く握っても指の間から零れ落ちるのは守れなかった笑顔達のようだ。
目は零れ落ちる砂を見ていても思い描くのは眩しい笑顔の残像ばかり。
この広大な大地を覆う砂一粒一粒を人だとするならばなんて自分はちっぽけな存在なのだろう。
この世界で何て自分は非力なんだろう。
らしくもない考えばかりが浮かんだ。


唇を噛むのは無邪気だった自分が悔しいから。

「カガリ」

いつの間にかすぐ後ろに来ていたアスランが腕に抱いていた白い花束をそっとこちらに差し出した。

「ありがとう」

短く礼を言って両手一杯の純白の花々を受け取った。
一歩一歩踏みしめて砂の丘の頂に立つ。
可憐な花弁に顔を寄せて口にするのは鎮魂の言葉。
友人の歌姫のように鎮魂歌は歌えない。かといって以前のように声を出して泣く事もできない。
ただ震える声で一言一言、この地に還った彼らに伝わるようにと言葉を紡いだ。
最後の言葉を言い終わり溜めていた息を吐き出す。
きちんと彼らに伝わっただろうか、届いただろうか。情けない声ではなかっただろうか。
目の奥が熱くなり鼻がつんとする。
気を緩めればせり上がってきそうな感情の塊を何とか鎮めようとする。
が、それまで微動だにしなかったアスランの手がそっとカガリの視界を覆った。
ひんやりとした大きな手に触れられて一瞬びくりと肩が揺れる。

「アスラン?」

恋人の名を呼ぶ自分の声は驚くほどに掠れていた。

「ここに居るのは肩書きのない唯のカガリだろう。ここにはお前と俺以外他には誰もいない。だから」

その後に続く言葉はない。

けれど、泣いていいんだと、彼らを思って心を吐露してもいいんだと、そう言われているようで。

「・・・・っく!」

閉ざされた視界、アスランの手の平に隠れたカガリの瞳からは堰を切ったように熱い雫が溢れて
乾いた大地に落ちていった。

「ア、フメ、ド!!」

今でも鮮明に思い出す、日に焼けた幼い笑顔。
こんなにも子供のように泣いている自分を見たらアフメドは「泣くなよ」と笑うだろうか。
けれど今は唯のカガリとしてみっともなく泣き喚く事を許して欲しい。
明日からは、もうこんな悲しさを誰もが感じないようにする為に頑張るから。


カガリの口から出た見知らぬ男の名にアスランの顔が一瞬歪むが感情の昂りに身を委ねている
カガリの目には入る事はなかった。




閉じていた目を開き、大丈夫とアスランに微笑んで、胸に抱いていた白の花々を空へと放つ。



空はあの日と同じような抜けるような青。



風に乗って飛ばされていく花の白さと、その向こうの空の青さがやけに目に沁みた。


                  
                                 

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