今でも思うんだ

もしもあの時僕が君を守れていたら、君のお父さんの艦を守れていたら、今頃違う未来があったかな



                    散る花



高く青く晴れ渡った空の下、『彼女』に会う為に歩を進める。
オーブの美しい海を一望出来る小高い丘に辿り着き、目的の場所の前で膝を折った。
腕に抱えた花束をそっと目の前の白い墓標に手向けて、石に刻まれた名前を指先でなぞる。



「ようやく君に逢いに来たよ・・・・・・フレイ」


その名を呼んだ途端鼻の奥がツンとして熱いものがこみ上げてくるのが分かった。


降り注ぐ陽の光に縁取られた白い墓標。
キラが見つめるその先には、寄り添うようにして佇む二つの墓標がある。
大きなものと、それより幾分か小さいもの。
それぞれに『ジョージ・アルスター』『フレイ・アルスター』の名が刻まれている。



フレイ・アルスター


その名はキラの中で大きな意味を持つ。
オーブのコロニーであるヘリオポリスで艶やかに笑っていた女の子。
友達に囲まれていつも楽しそうで。その存在が密かに気になってもいた。
戦争という言葉とは無縁の世界で幸せに暮らしていた彼女の運命を変えてしまったのは紛れもなく自分だった。
ストライクに乗ってがむしゃらに戦場を駆けても、フレイと交わした約束を守れなかった。
果たせなかった約束はフレイの心をめちゃくちゃにして、そして彼女の世界を壊した。



あの時は人を思い遣る事なんて出来なくて、自分の苦しみで精一杯だった。
ずるくて弱い僕はフレイから与えられる優しさや言葉に甘えてばかり。
あれだけ一緒にいたのにフレイの事を全く考えていなかった。
一方的に終わりを告げて、今までの関係をなかった事にしたくて、何かを言いかけたフレイの言葉を拒んだ。


痛かったんだ。フレイが投げつける剥き出しの感情が。
どうしようもなく痛くて、恐かった・・・・・・


そして気が付かなかった。
投げつけてくる言葉の刃は恐がりな彼女の自己防衛だったと。




間違って、離れ離れになって、でもまた戦場で僕らは再会した。
プロヴィデンスのビームライフルの照準がフレイの乗る脱出艇に定まった時、無我夢中でシールドを突き出した。
その向こうに無事な艇を見た瞬間、こちらを嬉しそうに見つめているフレイを見た時、今度こそ守れたと思ったんだ。
でも瞬きの間に、脱出艇ごとフレイは散った。
赤い髪を爆風にはためかせ、花が散るようにあっけなく真空の世界へ消えていった。
僕の、未消化な気持ちも一緒に連れて・・・・・・。


今でもあの瞬間を夢に見る。
心が引き裂かれるような思いはきっとこれからも消えない。


カガリに頼んで、フレイの墓は見晴らしの良いオーブの丘に、彼女のお父さんと隣り合うようにしてもらった。
広い宇宙で離れ離れになった親子がこれからはずっと寄り添っていられるように。
父親っ子で寂しがり屋のフレイが安心して眠れるようにと祈りを込めて。


今、僕の横にはラクスがいてくれる。フレイを想い涙する僕に、何も聞かずただ寄り添っていてくれる。
優しく聡い桃色の花。そんなラクスの想いが嬉しくて、切ない。
ただ、我儘だけどもう少し彼女の事を想う事を許して欲しい。
『泣かないで』と微かに聞こえたあの声が言うように、頬を伝う涙が無くなるまで。



「君の事を守れなかった僕が生きていく事を、君は許してくれるだろうか」



答える声は勿論ない。
ただ優しい風がそっと通り過ぎていくのを感じた。
それが声を持たないフレイからの返事のように思えて泣きそうになりながらも嬉しくて笑った。


「ありがとう・・・・・」



守れなかった君の命の分まで生きていくよ






散っても鮮やかにこの胸に生きる深紅の花

             


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